#43 ロシア語の主格の使い方

ロシア語では、文の中で単語がどのような役割を持つかによって、名詞や形容詞などの形が変化します。この仕組みを理解するうえで、最初に覚えておきたいのが主格です。
主格はロシア語にある6つの格のうち最も基本となる格で、主に「誰が」「何が」にあたる文の主語を表します。また、辞書に掲載されている名詞の基本形も、原則として主格になります。
そのため、ロシア語を学び始めたばかりの段階でも、実は主格の単語を数多く目にしています。ほかの格を学習するときにも主格を基準として語尾の変化を覚えていくため、格変化を理解する出発点とも言えるでしょう。
この記事では、ロシア語の主格とはどのような格なのか、基本的な使い方や語尾の特徴、ほかの格との違いについて紹介します。
主格の基本
ロシア語の主格は、文の中で「誰が」「何が」にあたる主語を表すために使われます。
動作をする人や物だけでなく、ある状態にある人や物、存在しているものなども、文の主語であれば主格になります。
例えば、次の文では А́нна が「誰が本を読んでいるのか」を表しているため、主格になっています。
- А́нна чита́ет кни́гу.
ー アンナは本を読んでいます。
また、以下の文でも、「何が机の上にあるのか」を表す кни́га は主格となります。
- Кни́га лежи́т на столе́.
ー 本が机の上にあります。
このように主格は文の中心となり、「誰について」「何について」述べているのかを示します。
さらに、主格は名詞の基本形として扱われる重要な格でもあります。辞書に掲載されている名詞は、原則として単数主格の形です。
そのため、主格は単に主語を表すための格というだけでなく、ほかの格への変化を学ぶ際の基準にもなります。
主語を表す際に使われる
主格の最も代表的な使い方は、文の主語を表すことです。
文の中で「誰がその動作をするのか」「何がその状態にあるのか」を表す名詞や代名詞は、基本的に主格になります。
- Ма́льчик игра́ет в футбо́л.
ー 男の子はサッカーをしています。 - Соба́ка спит.
ー 犬が寝ています。 - Кни́га лежи́т на столе́.
ー 本が机の上にあります。
このように、動作をする人や動物だけでなく、物の状態などについて「誰が / 何が〜する」「誰が / 何が〜の状態にある」と表す場合にも主格が使われます。
ロシア語の主格の働きは、英語の主語と比較するとわかりやすいです。
例えば、英語の Anna works.(アンナは働いています)では、Anna が動詞 works の主語です。
ロシア語でも、А́нна рабо́тает.(アンナは働いています)と、主格形の А́нна が同じように文の主語となっています。
ただし英語では、代名詞の一部を除いて名詞そのものの形が主語や目的語によって変化することは少なく、主に語順によって文中での役割を示します。
一方、ロシア語では格変化によって名詞の文法的な役割を示すことができます。
そのため、ロシア語は英語よりも語順の自由度が比較的高く、語順が変わっても格によって主語や目的語などの関係を判断できるのが特徴です。
主語と補語を結び付ける文で使われる
主格は、動作を行う主語を表すだけでなく、主語と補語が同一の人物や事物を指す文でも使われます。
英語の He is a doctor. のような文では、He が主語、a doctor が補語となり、「主語=補語」という関係が成り立っています。
ロシア語でも、現在時制ではこのような文を作ることができます。以下の文では、он(彼)が主語、врач(医者)が補語です。
- Он врач.
ー 彼は医者です。
どちらも同じ人物を指しており、он と врач はともに主格になっています。
同じように、次の文は А́нна が主語、студе́нтка が補語で、どちらも主格となります。
- А́нна — студе́нтка.
ー アンナは学生です。
ロシア語の特徴として、現在時制では「〜である」を意味する動詞 быть は通常省略されます。
英語では Anna is a student. のように be動詞 が必要ですが、ロシア語では А́нна — студе́нтка. のように、主語と補語を直接並べます。書き言葉では、名詞などで表された主語と補語の間にダッシュ(—)が置かれることがあります。
また、注意点として、主語と補語を結び付ける文だからといって、補語が常に主格になるわけではありません。過去形や未来形などで быть が明示される場合には、補語に造格が使われることがあります。
主格の単数形と複数形
主格には、単数形だけでなく複数形もあります。
例えば、「ランプ」を意味する ла́мпа は単数形 / 複数形で次のように変わります。
- 単数主格 ー ла́мпа(ランプ)
- 複数主格 ー ла́мпы(複数のランプ)
実際の文では、次のように使われます。
- Ла́мпа стои́т на столе́.
ー ランプが机の上にあります。 - Ла́мпы стоя́т на столе́.
ー 複数のランプが机の上にあります。
最初の文では ла́мпа が単数主格、二つ目の文では ла́мпы が複数主格です。名詞が複数形になると、それに合わせて動詞も стои́т → стоя́т と変化しています。
複数主格の作り方は、単数主格の語尾によって異なります。基本的な変化は次の通りです。
男性名詞
- 子音で終わる:語尾に -ы / -и を付ける
- -й で終わる:-й → -и
- -ь で終わる:-ь → -и
女性名詞
- -а で終わる:-а → -ы / -и
- -я で終わる:-я → -и
- -ь で終わる:-ь → -и
中性名詞
- -о で終わる:-о → -а
- -е で終わる:-е → -я
ただし、ロシア語の複数主格には例外も多くあります。例えば, челове́к → лю́ди(人)、ребёнок → де́ти(子ども)のように、単数形とは大きく異なる形になる名詞もあります。
また、男性名詞には дом → дома́(家)、го́род → города́(都市)、учи́тель → учителя́(教師)のように、複数主格で -а / -я を取るものもあります。
そのため、上記はあくまで基本的な変化として理解し、例外的な複数形を持つ名詞については、単数形と複数形をセットで覚えていくとよいでしょう。
呼びかけにも主格が使われる
現在のロシア語では、人の名前を呼んだり、相手に直接呼びかけたりするときには、基本的に主格と同じ形が使われます。
- А́нна, иди́ сюда́!
ー アンナ、こちらに来て! - Ива́н, подожди́!
ー イワン、待って!
ロシア語の歴史をさかのぼると、呼びかけには「呼格」と呼ばれる専用の形が使われていました。しかし、呼格は次第に廃れ、現代の標準ロシア語では主格のまま呼びかけることが多いです。
ただし、古い呼格の名残は現在でも宗教的・古風な表現などに残っています。例えば、Боже!(神よ!)の Божеは、Бог(神)の古い呼格に由来する形です。
一方、現代の口語では、人名などの語末を短くした特別な呼びかけ方も使われます。
- Маша → Маш!(マーシャ!)
- Са́ша → Саш!(サーシャ!)
- ма́ма → мам!(お母さん!)
なお、これらは主に親しい相手への呼びかけで使われる口語的な形です。通常の呼びかけでは名前の主格形か、それを元にした愛称や「名前+父称」といった言い方が使われます。
まとめ
主格は、ロシア語の6つの格の中で最も基本となる格です。
主な特徴をまとめると、次のようになります。
- 主格は主に「誰が」「何が」にあたる文の主語を表す。
- 名詞の単数主格は辞書に掲載される基本形である。
- 現在時制の「主語=補語」という文では、両方が主格になることがある。
- 主格には単数形と複数形がある。
- 現代ロシア語では、通常の呼びかけに主格と同じ形が使われる。
ロシア語では、単語の形を見ることで、その単語が文の中でどのような役割を持っているのかを判断できます。
格変化の基本となる主格を覚えることは、その仕組みを理解するための最初の一歩です。



