#48 ロシア語の前置格の使い方

ロシア語で「モスクワに住んでいます」「学校で勉強しています」「音楽について話しています」と表現するとき、場所や話題を表す名詞の形が変化します。
例えば、「モスクワで」は в Москве́、「学校で」は в шко́ле、「音楽について」は о му́зыке となります。
これらの表現で使われているのが、ロシア語の6つの格の一つである「前置格」です。
前置格はその名前が示すように、基本的に前置詞と組み合わせて使われます。特に「〜で」「〜について」といった表現では頻繁に登場するため、日常会話でも欠かせない格の一つです。
この記事では、ロシア語の前置格とはどのような格なのか、基本的な語尾変化から主な使い方まで、例文とともに紹介します。
前置格の基本
ロシア語の前置格は単独では使われず、常に в、на、о などの前置詞と共に用いられる格です。この点が「前置格」という名前の由来にもなっています。
前置格の用法としては、主に場所や話題・対象などを表します。
- Я живу́ в Москве́.
ー 私はモスクワに住んでいます。 - Мы говори́м о рабо́те.
ー 私たちは仕事について話しています。
上記の例文では、Москва́(モスクワ)が前置格の Москве́、рабо́та(仕事)が前置格の рабо́те に変化しています。
英語では in Moscow や about work のように基本的には前置詞を使って表すだけで、名詞そのものは変化しません。一方、ロシア語では前置詞を使うだけでなく、その後ろにある名詞も前置格へ変化させる必要があります。
ただし、必ずしも前置詞の後は前置格になるとは限りません。例えば в と на は、場所を表す場合には前置格を取りますが、移動先を表す場合には対格を取ります。
- Я в университе́те.
ー 私は大学にいます(前置格) - Я иду́ в университе́т.
ー 私は大学へ行きます(対格)
最初の文では「大学にいる」という場所を表しているため、университе́т が前置格の университе́те になっています。一方、二つ目の文では「大学へ行く」という移動先を表しているため、対格の университе́т が使われています。
このように、ロシア語では前置詞だけを見るのではなく、「その文で何を表しているのか」を考えて格を選ぶことが大切です。
前置格の基本的な語尾変化
前置格では名詞の性や単数・複数によって語尾が変化します。
単数形では -е になる名詞が多いですが、名詞の種類によっては -и になる場合もあります。また、複数形では基本的に -ах / -ях が使われます。
ここでは、男性名詞、女性名詞、中性名詞、複数名詞に分けて基本的な変化を見ていきましょう。
男性名詞: 基本は -е、-ий → -ии
子音で終わる男性名詞は、基本的に -е が付きます。
- стол → на столе́
ー 机 → 机の上で - го́род → в го́роде
ー 都市 → 都市で
-й で終わる男性名詞では、基本的に -й を取って –е を付けます。
- музе́й → в музе́е
ー 博物館 → 博物館で
ただし、-ий で終わる男性名詞では -ии となります。
- санато́рий → в санато́рии
ー 療養所 → 療養所で
女性名詞:-а / -я → -е、-ь → -и、-ия → -ии
女性名詞では、語尾が -а / -я の場合、基本的に -е へ変化します。
- шко́ла → в шко́ле
ー 学校 → 学校で - комна́та → в комна́те
ー 部屋 → 部屋で
一方、-ь で終わる女性名詞では、前置格の語尾が -и になります。
- тетра́дь → в тетра́ди
ー ノート → ノートの中で - пло́щадь → на пло́щади
ー 広場 → 広場で
また、-ия で終わる女性名詞は例外で、このタイプでは前置格が -ии になります。
- Росси́я → в Росси́и
ー ロシア → ロシアで - исто́рия → об исто́рии
ー 歴史 → 歴史について
特に Росси́я → в Росси́и は、ロシア語を学んでいると頻繁に使うため、早めに覚えておくとよいでしょう。
中性名詞:-о → -е、-е → -е、-ие → -ии
中性名詞は、-о で終わるものは、基本的に -о を -е に変えます。
- окно́ → на окне́
ー 窓 → 窓のところに - ме́сто → на ме́сте
ー 場所 → その場所で
一方、-е で終わる中性名詞は、前置格でも形が変わらないものが多いです。
- мо́ре → на мо́ре
ー 海 → 海で - по́ле → в по́ле
ー 野原 → 野原で
ただし、-ие で終わる中性名詞では、前置格が -ии になります。
- общежи́тие → в общежи́тии
ー 学生寮 → 学生寮で - зда́ние → в зда́нии
ー 建物 → 建物の中で
複数名詞: -ах / -ях
複数形では、男性・女性・中性という性の区別はなくなり、前置格は基本的に -ах / -ях になります。
- го́роды → в города́х
ー 都市 → 都市で - шко́лы → в шко́лах
ー 学校 → 学校で - музе́и → в музе́ях
ー 博物館 → 博物館で
単数形では名詞の性や語尾によって変化の仕方が異なりますが、複数形では -ах / -ях が基本となるため比較的覚えやすいです。
一部の男性名詞は第二前置格を持つ
ロシア語の一部の男性名詞には、通常の前置格とは別に、場所を表すときに使われる特別な形があります。この形は一般に第二前置格と呼ばれます。
通常、子音で終わる男性名詞は、前置格になると -е が付くのが基本です。
- го́род → в го́роде
ー 都市 → 都市で - университе́т → в университе́те
ー 大学 → 大学で
しかし、一部の男性名詞では、в や на と組み合わせて具体的な場所を表す場合、通常の -е ではなく -у́ / -ю́ という語尾を取ります。
例えば、「森」を意味する лес は、лес → в лесу́(森で / 森の中に)と変化します。
- Мы гуля́ем в лесу́.
ー 私たちは森を散歩しています。
また、「岸」を意味する бе́рег も、бе́рег → на берегу́(岸で)という形になります。
- Они́ отдыха́ют на берегу́ мо́ря.
ー 彼らは海岸で休んでいます。
ほかにも、次のような表現があります。
- сад → в саду́
ー 庭 → 庭で - угол → в углу́
ー 隅 → 隅で - шкаф → в шкафу́
ー 戸棚 → 戸棚の中で - аэропо́рт → в аэропорту́
ー 空港 → 空港で
この -у́ / -ю́ にはアクセントが置かれることが多く、通常の前置格とは語尾だけでなくアクセントの位置も異なる場合があります。
そして、第二前置格で特に重要なのは、場所を表す場合に使われるという点です。
例えば、лес について「森の中で」と場所を表す場合は、第二前置格の в лесу́(森で)となります。一方、「森について」と話題を表す場合には、通常の前置格の о ле́се(森について)を使います。
つまり、同じ лес でも、в лесу́(森で)/ о ле́се(森について)のように、前置詞と意味によって形が変わります。
同様に、сад も場所を表す場合には в саду́(庭で)となりますが、「庭について」であれば о са́де となります。
なお、すべての男性名詞に第二前置格があるわけではありません。第二前置格を持つのは一部の名詞に限られます。
そのため、第二前置格については、в лесу́、в саду́、на берегу́、в шкафу́ のように、よく使われる組み合わせを中心に覚えていくと効率的です。
「в / на+前置格」で場所を表す
前置格の代表的な使い方が、в や на と組み合わせて場所を表す用法です。
人や物が「どこにいるのか」を表す場合、基本的に 「в / на + 前置格」の形を使います。
- Я рабо́таю в о́фисе.
ー 私はオフィスで働いています。 - Она́ у́чится в университе́те.
ー 彼女は大学で勉強しています。 - Мы бы́ли на конце́рте.
ー 私たちはコンサートへ行っていました。 - Он рабо́тает на заво́де.
ー 彼は工場で働いています。
前置詞 в は「〜の中で / 〜の中に」という意味を持ち、建物や都市、国などの場所を表すときによく使われます。
- в до́ме
ー 家の中で / 家に - в Москве́
ー モスクワで / モスクワに - в Росси́и
ー ロシアで / ロシアに
一方、на の基本的な意味は「〜の上で、〜の上に」です。ただ、実際には物理的な「上」だけを表すわけではなく、職場やイベント、特定の施設など、ロシア語の慣習として на を使う場所も数多くあります。
- на рабо́те
ー 職場で / 仕事中で - на по́чте
ー 郵便局で - на конце́рте
ー コンサートで
このように、場所を表す в と на のどちらを選ぶかは、名詞によって決まっている場合も少なくありません。
そのため、в шко́ле(学校で)、в университе́те(大学で)、на рабо́те(職場で)のように、前置詞と名詞を一つのまとまりとして覚える方法がおすすめです。
「в / на+前置格」と「в / на+対格」の違い
в と на は前置格だけでなく、対格と一緒に使われることもあります。
「в / на+前置格」と「в / на+対格」の使い分けについては、基本的には次のように判断できます。
- в / на + 前置格 ー どこにいるのか
- в / на + 対格 ー どこへ移動するのか
例文でも確認してみましょう。
- Я в шко́ле.
ー 私は学校にいます(前置格) - Я иду́ в шко́лу.
ー 私は学校へ行きます(対格)
1つ目の文では、すでに学校という場所にいるため、шко́ла(学校) は前置格の шко́ле になります。
一方、2つ目の文では現在いる場所から学校へ向かう移動を表しているため、шко́ла は対格の шко́лу になります。
この違いは前置詞 на を使う場合も同様です。
- Она́ на рабо́те.
ー 彼女は職場にいます(前置格) - Она́ идёт на рабо́ту.
ー 彼女は仕事へ行きます(対格)
前者では「職場にいる」という場所を表しているため前置格、後者では「職場へ行く」という移動先を表しているため対格が使われています。
また、「移動を表す動詞があれば対格になる」というわけではありません。
例えば、Я гуля́ю в па́рке.(私は公園を散歩しています)という文では、гуля́ть(散歩する)という移動を伴う動作を表していますが、「公園へ」という目的地ではなく、「公園で」という動作が行われる場所を表しています。そのため、парк は前置格の па́рке になります。
一方、Я иду́ в парк.(私は公園へ行きます)では、公園が移動の目的地になっているため対格が使われます。
英語では in the office と to the office のように主に前置詞を変えることで場所と方向を区別しますが、ロシア語では同じ в や на を使いながら、後ろに続く名詞の格を変えることでこの違いを表します。
そのため、в / на を見ただけで格を判断するのではなく、「場所を表しているのか、それとも移動先を表しているのか」を確認することが大切です。
「о+前置格」で「〜について」を表す
前置格のもう一つの重要な使い方が、前置詞 о と組み合わせて「〜について」「〜に関して」という話題や思考の対象を表す用法です。
前置詞 о は英語の about に近い働きを持ち、「〜について話す」「〜について考える」といった表現でよく使われます。
- Мы говори́м о му́зыке.
ー 私たちは音楽について話しています。 - Я ду́маю о рабо́те.
ー 私は仕事について考えています。 - Она́ расска́зывает о Росси́и.
ー 彼女はロシアについて話しています。
о の後ろに置かれる名詞や代名詞は前置格になります。例えば、му́зыка(音楽)は о му́зыке、рабо́та(仕事)は о рабо́те、Росси́я(ロシア)は о Росси́и に変化します。
なお、о は後ろに続く単語によって об や обо という形になることがあります。
一般的に母音で始まる語の前では、発音を滑らかにするために об が使われます。
- об А́нглии
ー イングランドについて - об исто́рии
ー 歴史について
また、一部の語の前では обо が使われます。
- обо мне
ー 私について - обо всём
ー すべてについて
о / об / обо は、形が異なっても基本的な意味は同じです。まずは 「о + 前置格」=「〜について」 という基本を覚え、そのうえで об や обо の使い分けを身に付けていきましょう。
まとめ
前置格は、前置詞と共に、主に場所や話題などを表すときに使われます。
主な特徴をまとめると、次のようになります。
- 前置格は基本的に前置詞と組み合わせて使われる。
- 単数形では -е になる名詞が多い。
- -ия、-ие、-ий で終わる名詞などは -и になる。
- 複数形では基本的に -ах / -ях になる。
- в лесу́ のように、一部の男性名詞は場所を表す際に第二前置格となる。
- 「в / на + 前置格」で「〜で」「〜に」という場所を表す。
- 「в / на + 対格」は移動先を表し、前置格との使い分けに注意が必要。
- 「о / об / обо + 前置格」で「〜について」を表す。
前置格は、「どこにいるのか」「どこで何をするのか」「何について話すのか」といった基本的な内容を表現するために欠かせない格です。
第二前置格や「в / на + 対格」との使い分けに注意しながら、в шко́ле、на рабо́те、о Росси́и といった頻出表現から覚えていきましょう。



