#44 ロシア語の生格の使い方

ロシア語には、名詞や代名詞、形容詞などの形が文中での役割に応じて変化する「格」という仕組みがあります。その中でも、生格はさまざまな場面で使われる重要な格の一つです。
生格は「〜の」という所有や所属を表すだけでなく、特定の前置詞や数詞と組み合わせて「〜から」「〜の一部」といった意味を表すときにも使われます。
最初は使い方が多く複雑に感じるかもしれませんが、それぞれの用法を整理して覚えると、生格が使われる理由も少しずつ理解できるようになります。
この記事では、ロシア語の生格とはどのような格なのか、基本的な意味や使い方、名詞の語尾変化について紹介します。
生格の基本
生格は、ロシア語にある6つの格の一つです。
生格の代表的な働きは、あるものが「誰のものなのか」「何に属しているのか」を表すことです。英語の of や所有を表す ’s に近い意味になります。
例えば、「アンナの本」は次のように表します。
- кни́га А́нны
ー アンナの本
А́нна が主格の形で、生格では А́нны に変化しています。この場合、А́нны が「本が誰のものなのか」を示しています。
また、「家の屋根」であれば дом(家)が生格の до́ма(家の)に変化します。
- кры́ша до́ма
ー 家の屋根
このように、ロシア語では英語の of や ’s にあたる関係を表す際、名詞を生格に変化させることで二つの名詞の関係を示すことができます。
さらに生格には所有や所属だけでなく、不在や欠如、起点、数量、全体と部分の関係などを表す働きがあります。また、без、для、из、от など、後ろの名詞を生格にする特定の前置詞もあります。
- нет вре́мени
ー 時間がない - из Росси́и
ー ロシアから - пять книг
ー 5冊の本
このように、生格は所有・所属はもちろん、否定や数量、起点など幅広い場面で使われる格となります。
生格の語尾変化
生格では名詞の性や単数・複数によって語尾が変化します。ここでは、単数生格の基本的な変化を見てみましょう。
男性名詞の単数生格形
子音で終わる男性名詞では、基本的に語尾に -а が付きます。
- дом → до́ма(家)
- студе́нт → студе́нта(学生)
一方、-й や -ь で終わる男性名詞では、基本的に -я に変化します。
- музе́й → музе́я(博物館)
- учи́тель → учи́теля(教師)
このように、男性名詞では主格の終わり方によって、主に -а または -я の形になります。ただし、名詞によっては語幹や綴りに変化が生じる場合もあります。
女性名詞の単数生格形
-а で終わる女性名詞は、生格では基本的に -ы に変化します。
- ма́ма → ма́мы(母)
- сестра́ → сестры́(姉妹)
ただし、г、к、х、ж、ч、ш、щ の後ろには ы を置かないという正書法の規則により、一部の単語は -и になります。
- кни́га → кни́ги(本)
また、-я、-ь で終わる女性名詞では、基本的に -и に変化します。
- неде́ля → неде́ли(週)
- тетра́дь → тетра́ди(ノート)
中性名詞の単数生格形
-о で終わる中性名詞は、基本的に -а に変化します。
- окно́ → окна́(窓)
- письмо́ → письма́(手紙)
一方、-е で終わる中性名詞は、基本的に -я に変化します。
- мо́ре → мо́ря(海)
- по́ле → по́ля(野原)
このように、中性名詞も主格の語尾を見ることで、生格の形をある程度予測できます。
最後に、単数生格の基本的な変化をまとめると、次のようになります。
| 名詞 | 主格の語尾 | 生格の基本的な語尾 |
|---|---|---|
| 男性名詞 | 子音 | -а |
| 男性名詞 | -й、-ь | -я |
| 女性名詞 | -а | -ы / -и |
| 女性名詞 | -я、-ь | -и |
| 中性名詞 | -о | -а |
| 中性名詞 | -е | -я |
まずは дом → до́ма、окно́ → окна́、кни́га → кни́ги のような基本的な変化を覚え、その後に特殊な語尾や不規則変化を学んでいくと、生格の仕組みを理解しやすくなります。
複数生格は語尾の変化が複雑
生格の中でも、特に学習者が難しく感じやすいのが複数生格です。
単数生格では、男性名詞なら -а / -я、女性名詞なら -ы / -и など、ある程度規則的な変化が見られます。一方、複数生格では名詞の性や語尾によってさまざまな形に変化します。
例えば、男性名詞では -ов、-ев、-ей などの語尾が付くことがあります。
- студе́нт → студе́нтов(学生)
- музе́й → музе́ев(博物館)
- учи́тель → учителе́й(教師)
一方、-а や -я で終わる女性名詞では、もとの語尾がなくなる形が多く見られます。
- кни́га → книг(本)
- ко́мната → ко́мнат(部屋)
- неде́ля → неде́ль(週)
中性名詞でも同じように、語尾が脱落したり別の形に変化したりします。
- окно́ → о́кон(窓)
- ме́сто → мест(場所)
- мо́ре → море́й(海)
さらに、複数生格では単に語尾を取り除くだけではなく、発音しやすくするために語幹の中へ母音が現れる場合もあります。例えば、окно́ → о́кон では、複数生格形で語幹の中に о が現れます。このような母音は出没母音と呼ばれ、語形変化の際に現れたり消えたりします。
また, челове́к → люде́й(人) や ребёнок → дете́й(子ども) のように、形が大きく変わる不規則な名詞もあります。
このように複数生格には複数の変化パターンがあるため、よく使う単語から少しずつ覚えていくのがおすすめです。
所有や所属を表す
生格の最も基本的な使い方の一つが、所有や所属、物事の関係を表すことです。
例えば、маши́на бра́та(兄弟の車)という表現では, брат(兄弟)が生格の бра́та に変化しています。この場合、бра́та は「車の所有者」を表しており、「兄弟が所有する車」という関係を示しています。
ほかにも、次のように人が何かを所有していることを表す場合に生格が使われます。
- кни́га А́нны
ー アンナの本 - дом роди́телей
ー 両親の家
ただし、生格が表すのは、必ずしも所有の関係だけではありません。あるものが別のものに属していたり、二つの物事の間の関係性を表す際にも生格を使うことができます。
- центр го́рода
ー 街の中心 - дверь ко́мнаты
ー 部屋のドア - исто́рия Росси́и
ー ロシアの歴史
生格を使って二つの名詞の関係を表す場合、基本的には「中心となる名詞+生格形の名詞」という語順になります。
例えば исто́рия Росси́и では、中心となる исто́рия(歴史)の後ろに Росси́я(ロシア) の生格である Росси́и が置かれています。
英語では Anna’s book や the history of Russia のように ’s や of を使って表す関係を、ロシア語では名詞そのものを生格へ変化させることで表すことができます。
「〜がない」を表す否定生格
ロシア語では、人や物が「存在しない」「ない」ことを表すときに生格が使われます。また、否定文の目的語に生格が現れることもあり、こうした現象は「否定生格」と呼ばれます。
例えば、нет を使った表現があります。нет は「〜がない」「〜がいない」という意味を表し、存在しない人や物を表す文章では、対象となる名詞は生格になります。
- У меня́ нет маши́ны.
ー 私は車を持っていません。
この文では、маши́на(車) が生格の маши́ны に変化しています。
このようにロシア語では、「у+生格+нет+生格」の形を使って「〜は … を持っていない」と表すことができます。
ほかにも、次のような使い方ができます。
- Здесь нет магази́на.
ー ここには店がありません。 - У него́ нет вре́мени.
ー 彼には時間がありません - В ко́мнате нет стола́.
ー 部屋には机がありません。
また、生格は нет を使う場合だけでなく、何らかの存在を表す文を否定文にした際にも現れることがあります。
- В ко́мнате был стол.
ー 部屋には机がありました。 - В ко́мнате не́ было стола́.
ー 部屋には机がありませんでした。
上記の2つ目の文では、стол が生格の стола́ に変化しています。
このように、ロシア語では「あるものが存在しない」という否定文と生格が深く結び付いています。
ただし、否定文であれば必ず生格になるわけではありません。例えば、他動詞を使った否定文では、目的語に生格と対格のどちらが使われるかは、意味や文脈などによって変わることがあります。
そのため、初めの段階では「нет+生格」 や「не́ было+生格」のような基本表現から否定生格に慣れていきましょう。
特定の数量を表す
生格の重要な使い方の一つが、数や数量を表す表現です。
ロシア語では数詞の後ろに置かれる名詞の形が数によって変化します。特に重要なのが、2・3・4の後ろでは単数生格、5以上の後ろでは複数生格が使われるという基本的な規則です。
例えば、студе́нт(学生)は次のように変化します。
- оди́н студе́нт
ー 1人の学生 - два студе́нта
ー 2人の学生 - три студе́нта
ー 3人の学生 - четы́ре студе́нта
ー 4人の学生 - пять студе́нтов
ー 5人の学生
1の場合は студе́нт が単数主格ですが、2・3・4では単数生格の студе́нта、5以上では複数生格の студе́нтов が使われています。
基本的には数詞の最後の数によって名詞の形が決まります。ロシア語の数詞と格変化の規則をまとめると、以下の通りです。
- 1:単数主格
- 2〜4:単数生格
- 5〜20:複数生格
- 21、31、41など:単数主格
- 22〜24、32〜34など:単数生格
- 25〜30、35〜40など:複数生格
- 11〜14、111〜114など、最後の2桁が11〜14の場合:複数生格
さらに、生格は具体的な数字だけでなく, мно́го(多くの)、ма́ло(少しの)、ско́лько(いくつの/どれくらいの)、не́сколько(いくつかの)といった数量詞と共に使われます。
- мно́го люде́й
ー 多くの人々 - ма́ло вре́мени
ー 時間が少ない - ско́лько книг?
ー 何冊の本? - не́сколько вопро́сов
ー いくつかの質問
このように、ロシア語では数や量を表すときに生格が頻繁に使われます。
特に「1は単数主格、2〜4では単数生格、5以上では複数生格」という規則は、買い物や時間、年齢、人数など日常会話のさまざまな場面で必要になるため、生格を学ぶ際にしっかり覚えておきたいポイントです。
生格を要求する前置詞
ロシア語では、特定の前置詞の後ろに置かれる名詞は生格になります。
生格と組み合わせる代表的な前置詞は以下の通りです。
- без:〜なしで
- для:〜のために
- до:〜まで
- из:〜から、〜の中から
- от:〜から
- с:〜から、〜の上から
- у:〜のところに、〜のそばに
- о́коло:〜の近くに、約〜
例えば、「〜から」という出発点や起点を表す場合には、「из / с/ от + 生格」の形でよく使われます。いずれも「〜から」と訳せますが、どこから離れるのかによって使い分けます。
из は、建物や空間の内部から外へ出る場合や、国・都市などを出発点として表す場合に使われます。
- из Росси́и
ー ロシアから - из магази́на
ー 店から - из ко́мнаты
ー 部屋から
一方、с は「〜の上から」という意味のほか、仕事・イベントなど特定の場所や活動から離れる場合に使われます。
- со стола́
ー テーブルの上から - с рабо́ты
ー 仕事から / 職場から - с конце́рта
ー コンサートから
от は、人や物を起点として「〜から」を表したり、ある対象から離れることを表します。
- от дру́га
ー 友人から - от врача́
ー 医師から - от до́ма
ー 家から
それ以外にも、без は「〜なしで」、для は「〜のために」、до は「〜まで」、о́коло は「〜の近くに」などの意味を表します。
- без са́хара
ー 砂糖なしで - для дру́га
ー 友人のために - до ве́чера
ー 夕方まで - о́коло до́ма
ー 家の近くに
このように、生格を要求する前置詞には、起点、欠如、目的、終点、位置など、さまざまな意味があります。
ロシア語では前置詞と格が組み合わさって意味を作ることが多いため、前置詞だけを覚えるのではなく、「из+生格」「без+生格」「для+生格」 のように、後ろに続く格とセットで覚えておくと便利です。
まとめ
生格はロシア語にある6つの格の一つで、所有や所属をはじめ、否定、数量、起点などさまざまな意味を表します。
主な特徴をまとめると、次のようになります。
- 「〜の」のような所有や所属を表す。
- 名詞の性や数によって語尾が変化する。
- 特に複数生格にはさまざまな変化がある。
- нет などと組み合わせて「〜がない」を表す。
- без、для、до、у など、生格を要求する前置詞がある。
- 数詞や数量を表す単語の後ろで使われる。
生格は用法が多いため、ロシア語の格の中でも難しく感じやすいかもしれません。
まずは「〜の」「〜がない」「〜から」「数量」といった基本的な使い方から覚え、前置詞や語尾変化へと少しずつ知識を広げていくことで、生格を自然に使えるようになります。



