#46 ロシア語の対格の使い方

ロシア語では、名詞が文の中でどのような役割を持つかによって語尾が変化します。この仕組みを「格」と呼び、ロシア語には主格、生格、与格、対格、造格、前置格の6つの格があります。
その中の1つである対格は、主に動作の対象となる「〜を」を表すときに使われます。例えば、「本を読む」「映画を見る」の「本を」「映画を」にあたる部分です。また、一部の前置詞と組み合わせて、移動する方向や時間などを表すこともあります。
さらに、男性単数名詞や複数名詞では、その名詞が「活動体」か「不活動体」かによって、対格の形が異なります。この違いは、ロシア語の格変化を理解するうえで重要なポイントです。
この記事では、ロシア語の対格とはどのような格なのか、基本的な使い方や名詞の語尾変化、活動体と不活動体の違いについて紹介します。
対格の基本
対格は、ロシア語にある6つの格の一つです。
その代表的な働きは、動詞が表す動作の対象を示すことです。英語の直接目的語に近い役割を持ちます。
例えば、「私は本を読んでいます」は次のように表します。
- Я смотрю́ фи́льм.
― 私は映画を見ています。
この文では фи́льм(映画)は「見る」という動作の対象なので対格になります。なお、фи́льм は男性名詞の不活動体であるため、単数の対格は主格と同じ фи́льм になります。
また、対格は「動作の対象を示す」という働きに加えて、特定の前置詞と組み合わせて移動の方向や時間などを表すこともあります。
- Я иду́ в шко́лу.
― 私は学校へ行きます。
この場合は前置詞 в の後に шко́ла(学校)の対格形 шко́лу が置かれ、「学校へ」という移動の方向を表しています。
まずは「誰が・何をするのか」という文の構造に注目し、「何を」にあたる名詞には対格が使われることが多いと理解しておくと、その後の格変化も学びやすくなります。
動作の対象を表す
対格は、「〜を読む」「〜を見る」「〜を買う」など、直接目的語をとる他動詞と一緒によく使われます。
例えば、次のような動詞の直接目的語として、対格が使われます。
- Она́ пи́шет письмо́.
― 彼女は手紙を書いています。 - Мы изуча́ем ру́сский язы́к.
― 私たちはロシア語を勉強しています。 - Он ку́пит маши́ну.
― 彼は車を買います。 - Я зна́ю э́того челове́ка.
― 私はこの人を知っています。
このように、「誰を見るのか」「何を書くのか」「何を勉強するのか」のように、動詞に対して кого́?(誰を?)、что?(何を?)と問いかけたとき、その答えになる名詞に対格が使われることが多くあります。
ただし、「〜を」と訳される名詞が必ず対格になるわけではありません。ロシア語では動詞によって後ろに置かれる名詞の格が決まることがあり、生格や与格、造格などが使われる場合もあります。
そのため、新しい動詞を覚える際には意味だけではなく、「その動詞はどの格を要求するのか」まで一緒に確認しておくことが大切です。
前置詞 в / на と一緒に方向を表す
対格は動詞の目的語だけでなく、前置詞と組み合わせて移動する方向や目的地を表す場合にも使われます。
特に頻出なのが、前置詞 в と на です。「в + 対格」 や 「на + 対格」 の形で、「どこへ?」という移動の方向を表します。
例えば、次のように使います。
- Я иду́ в шко́лу.
― 私は学校へ行きます。 - Мы е́дем в Москву́.
― 私たちはモスクワへ行きます。 - Она́ идёт на рабо́ту.
― 彼女は仕事へ行きます。
この場合、шко́ла → шко́лу、Москва́ → Москву́、рабо́та → рабо́ту のように、それぞれの名詞が対格になっています。
в と на のどちらを使うかは、対象の目的地によって異なります。
前置詞 в は、国や都市、建物などの内部へ向かう場合によく使われます。
- Я иду́ в магази́н.
― 私は店へ行きます。 - Он е́дет в Росси́ю.
― 彼はロシアへ行きます。
一方、前置詞 на は、仕事や授業、コンサートなどの活動・行事へ向かう場合や、特定の場所へ向かう場合に使われます。
- Я иду́ на конце́рт.
― 私はコンサートへ行きます。 - Она́ идёт на уро́к.
― 彼女は授業へ行きます。 - Мы е́дем на вокза́л.
― 私たちは駅へ行きます。
ただし、в と на の使い分けは慣習的に決まっているものが多いため、場所を表す単語を覚える際は、どちらの前置詞と組み合わせるのかも確認することが大切です。
注意点として、同じ в や на でも、移動ではなく「どこにいるのか」という場所を表す場合には、対格ではなく前置格が使われます。
- Я иду́ в шко́лу.
― 私は学校へ行きます(対格) - Я в шко́ле.
― 私は学校にいます(前置格) - Она́ идёт на рабо́ту.
― 彼女は仕事へ行きます(対格) - Она́ на рабо́те.
― 彼女は職場にいます(前置格)
この違いは疑問詞で考えるとわかりやすいです。
Куда́?(どこへ?) に答える場合は、基本的に 「в / на + 対格」 を使います。
一方、Где?(どこで?/ どこに?) に答える場合は、基本的に 「в / на + 前置格」を使います。
- в / на + 対格 → 移動の方向・目的地
- в / на + 前置格 → 人や物が存在する場所
対格を学ぶ際には、「〜を」という直接目的語の働きだけでなく、в や на と組み合わせて「どこへ向かうのか」を表せることも覚えておくことが大切です。
男性名詞では活動体と不活動体の区別が重要
男性名詞を対格に変化させる際は、活動体と不活動体の区別が重要になります。
活動体とは、人間や動物などの生き物を表す名詞のことです。例えば、брат(兄・弟)、студе́нт(学生)、кот(猫)などが活動体にあたります。
一方、不活動体は物や場所、抽象的な概念などを表す名詞です。стол(机)、телефо́н(電話)、фи́льм(映画)などが不活動体にあたります。
この区別が重要なのは、男性単数名詞では活動体か不活動体かによって対格の形が異なるためです。
まず、不活動体の場合は対格が主格と同じ形になります。
- Я покупа́ю стол.
― 私は机を買っています。
この文では動詞 покупа́ю(買う)の目的語として стол が対格になっていますが、стол は不活動体なので主格と同じ стол のままです。
一方、活動体の場合は、対格は生格と同じ形になります。
- Я ви́жу бра́та.
― 私は兄(弟)を見ています。 - Она́ зна́ет э́того студе́нта.
― 彼女はこの学生を知っています。
上記の例文では、それぞれ бра́та、студе́нта と生格形になっています。
つまり、男性単数名詞の対格には次のような規則があります。
- 不活動体:対格=主格
- 活動体:対格=生格
ただし、活動体と不活動体は、単純に「実際に生きているかどうか」だけで決まるとは限りません。言語上の分類であるため、ро́бот(ロボット)など判断が難しい名詞もあります。
まずは、人間や動物を表す名詞は活動体、物や概念を表す名詞は不活動体という基本的な考え方を押さえておきましょう。
女性名詞と中性名詞の対格
女性名詞と中性名詞では、単数形の対格は比較的一定の規則に則って変化します。
まず、-а または -я で終わる女性名詞は、対格になると基本的に「-а → -у」「-я → -ю」と語尾が変化します。
- Я чита́ю кни́гу.
― 私は本を読んでいます。 - Я люблю́ свою́ се́мью.
― 私は自分の家族を愛しています。
一方、-ь で終わる女性名詞は、対格と主格は同じ形になります。
- Я открыва́ю дверь.
― 私はドアを開けています。 - Она́ покупа́ет тетра́дь.
― 彼女はノートを買っています。
中性名詞の場合、単数形では基本的に主格と対格が同じ形になります。
- Она́ пи́шет письмо́.
― 彼女は手紙を書いています。 - Я ви́жу мо́ре.
― 私は海を見ています。
つまり、女性名詞と中性名詞の単数対格を整理すると次のようになります。
- 女性名詞: -а → -у
- 女性名詞:-я → -ю
- -ь で終わる女性名詞 → 対格=主格
- 中性名詞:対格=主格
複数形でも活動体と不活動体を区別する
複数形の対格でも、活動体と不活動体の違いが重要になります。
単数形では、活動体と不活動体によって対格の形が変わるのは主に男性名詞です。一方、複数形では名詞の性に関係なく、活動体か不活動体かによって対格の形が決まります。
不活動体の場合は、複数対格=複数主格となります。
例えば、不活動体の女性名詞 кни́га(本)は、複数形では次のようになります。
- Я чита́ю кни́ги.
― 私は本を読んでいます。
この文の кни́ги は複数対格ですが、複数主格の кни́ги と同じ形になっています。
一方、人間や動物などを表す活動体の場合は、複数対格=複数生格となります。
例えば、студе́нт(学生)の複数主格は студе́нты ですが、複数対格では複数生格と同じ студе́нтов になります。
- Я ви́жу студе́нтов.
― 私は学生たちを見ています。
なお、この変化は女性名詞複数と中性名詞複数でも同様です。
сестра́(姉 / 妹)は女性名詞ですが、人を表す活動体なので、複数対格では複数主格の сёстры ではなく、複数生格と同じ сестёр が使われます。
つまり、複数形では次のような規則で変化します。
- 不活動体:複数対格=複数主格
- 活動体:複数対格=複数生格
単数形では「男性名詞かどうか」に注意する必要がありますが、複数形では男性・女性・中性という性に関係なく、この活動体・不活動体の区別が適用されます。
まとめ
対格はロシア語にある6つの格の一つで、主に動作の対象を表すために使われます。
主な特徴をまとめると、次のようになります。
- 動詞が表す動作の対象を示す。
- в や на と組み合わせて移動する方向を表す。
- 男性単数の活動体では、対格=生格になる。
- 男性単数の不活動体では、対格=主格になる。
- 女性単数名詞では、一般的に -а → -у、-я → -ю と変化する。
- 中性単数名詞では、対格=主格になる。
- 複数形では、性に関係なく活動体と不活動体を区別する。
対格は、ロシア語の文章や会話で頻繁に登場する重要な格です。「何をするのか」「どこへ向かうのか」という基本的な表現を作るためにも欠かせません。
最初は活動体と不活動体の区別や語尾変化が複雑に感じられるかもしれませんが、それぞれの規則を例文と一緒に整理すると理解しやすくなります。



