#45 ロシア語の与格の使い方

ロシア語の6つある格の1つである与格は、「誰に」「何に」といった動作の相手を表すときによく使われる格です。
例えば、「私は友人に本をあげました」という文では、「友人に」にあたる部分が与格になります。さらにロシア語の与格は物を与える場面だけでなく、「私は寒いです」といった表現や、人の年齢を表す際にも使われます。
そのため、与格の基本的な意味を理解しておくと、さまざまなロシア語表現を理解しやすくなります。
この記事では、ロシア語の与格とはどのような格なのか、基本的な意味や使い方、名詞の語尾変化について紹介します。
与格の基本
ロシア語の与格の主な役割は、動作が向けられる相手や、その動作によって何かを受け取る相手を表すことです。
例えば、「私はアンナに本をあげます」は次のように表します。
- Я даю́ кни́гу А́нне.
― 私はアンナに本をあげます。
この文では、А́нна が与格の А́нне に変化しています。
Я は本を与える人、кни́гу は与えられるもの、А́нне は本を受け取る相手です。この文では、「誰に本をあげるのか」という問いに対する答えが与格になります。
ロシア語では、与格について尋ねる疑問詞として кому́?(誰に?)と чему́?(何に?)が使われます。
- Кому́ ты даёшь кни́гу?
― 君は誰に本をあげるのですか? - А́нне.
― アンナにです。
このように、与格は動作や状態が向けられる相手を表す格です。
さらに、人の年齢や感情、好み、必要性などを表す際にも使われます。また、к や по など、与格を要求する前置詞もあります。
与格の語尾変化
与格では、名詞の性や単数・複数によって語尾が変化します。
ここでは、基本的な変化を見てみましょう。
| 名詞の種類 | 単数主格 | 単数与格 |
|---|---|---|
| 男性名詞(子音) | брат | бра́ту |
| 男性名詞(-й) | музе́й | музе́ю |
| 男性名詞(-ь) | слова́рь | словарю́ |
| 女性名詞(-а) | ма́ма | ма́ме |
| 女性名詞(-я) | неде́ля | неде́ле |
| 女性名詞(-ь) | дверь | две́ри |
| 中性名詞(-о) | окно́ | окну́ |
| 中性名詞(-е) | мо́ре | мо́рю |
男性名詞の単数与格形
男性名詞では、子音で終わる名詞には -у、-й や -ь で終わる名詞には -ю が使われます。
- брат → бра́ту(兄弟)
- музе́й → музе́ю(博物館)
- слова́рь → словарю́(辞書)
女性名詞の単数与格形
а / -я で終わる女性名詞は、語尾が -е に変わります。
- ма́ма → ма́ме(母親)
- сестра́ → сестре́(姉 / 妹)
- неде́ля → неде́ле(週)
ただし、-ь で終わる女性名詞は、-ь は -и に変化します。
- дверь → две́ри(ドア)
- но́чь → но́чи(夜)
また、-ия で終わる女性名詞は、通常の -я で終わる名詞とは異なり、与格では -ии になります。
- Росси́я → Росси́и(ロシア)
- Ма́рия → Ма́рии(マリア:人名)
中性名詞の単数与格形
中性名詞では、基本的に -о → -у、-е → -ю と変化します。
- окно́ → окну́(窓)
- мо́ре → мо́рю(海)
複数名詞の与格形
複数形の場合は、名詞の性にかかわらず、基本的に -ам / -ям が使われます。
- студе́нты → студе́нтам(学生たち)
- друзья́ → друзья́м(友人たち)
- неде́ли → неде́лям(週)
- моря́ → моря́м(海)
与格の変化形を覚える場合、まずは男性名詞は -у / -ю、-а / -я 終わりの女性名詞は -е、中性名詞は -у / -ю、複数形は -ам / -ям という基本パターンを押さえましょう。
動作の受け手を表す
与格の最も基本的な使い方は、「誰に」「何に」という動作の相手や受け手を表すことです。
誰かに物を渡したり、手紙を書いたり、何かを見せたりする場合、その動作は特定の相手に向けて行われます。ロシア語では、このような動作の受け手を与格で表します。
- Я даю́ кни́гу бра́ту.
― 私は兄(弟)に本をあげます。
上記の文では、бра́ту が与格です。もとの形は брат(兄 / 弟)ですが、「誰に本をあげるのか」という動作の相手を表しているため、与格の бра́ту に変化しています。
また、次の例文でも、друг → дру́гу、роди́тели → роди́телям と、動作の受け手を与格で表しています。
- Она́ пи́шет письмо́ дру́гу.
― 彼女は手紙を友人に書いています。 - Мы показа́ли фотогра́фии роди́телям.
― 私たちは写真を両親に見せました。
なお、ロシア語では「何を」と直接目的語にあたるものが対格、「誰に」と間接目的語にあたる相手が与格で示されます。
例えば、Я даю́ кни́гу бра́ту.(私は兄 / 弟に本をあげます)という文なら、「何を」を示す кни́гу(本を)は対格、「誰に」を示す бра́ту(兄 / 弟)が与格になります。
ロシア語の文章を理解する際には、与格と対格をそれぞれ区別することが大切です。
無人称文でも与格が使われる
ロシア語では、人の感覚や気分、心理状態などを表す無人称文でも与格が使われます。
無人称文とは、「誰が〜する」という明確な主語を置かずに状態や感覚を表す表現です。この場合、その状態を経験している人を与格で表します。
- Мне хо́лодно.
― 私は寒いです。 - Мне жа́рко.
― 私は暑いです。 - Мне гру́стно.
― 私は悲しいです。 - Мне интере́сно.
― 私は興味があります。
ロシア語の無人称文では、その状態を経験している人を、主格の я ではなく与格の мне を用いて表します。
そのため、Мне хо́лодно. は直訳すると「私にとって寒い」「私には寒く感じられる」というニュアンスになります。
また、無人称文では感覚や気分だけでなく、可能・必要・許可などを表す場合にも与格が使われます。
- Мне мо́жно войти́?
― 入っても大丈夫ですか? - Мне на́до рабо́тать.
― 私は働かなければなりません。 - Ему́ нельзя́ здесь кури́ть.
― 彼はここでタバコを吸ってはいけません。
これらの文でも、主格の я や он ではなく、мне や ему́ といった与格を用いて、その状況が当てはまる人を示しています。
年齢を表すときにも与格を使う
ロシア語では、人の年齢を表すときにも与格が使われます。
例えば、「私は20歳です」は次のように表します。
- Мне два́дцать лет.
― 私は20歳です。
ここでは「私」を表す主格の я ではなく、与格の мне が使われています。
英語では I am twenty years old. のように、年齢を表す人を主語にします。一方、ロシア語では年齢を表す人を与格に置き、「その人に何年があるか」という形で年齢を表します。
他の人の年齢を表す場合も同じです。
- Ему́ три́дцать лет.
― 彼は30歳です。 - Ей два́дцать два го́да.
― 彼女は22歳です。 - А́нне два́дцать пять лет.
― アンナは25歳です。
ему́ は он の与格、ей は она́ の与格、А́нне は А́нна の与格です。
なお、年齢を表すときは、数字によって год(年)の形が変化します。
- Ребёнку оди́н год.
― その子は1歳です。 - Ребёнку два го́да.
― その子は2歳です。 - Ребёнку пять лет.
― その子は5歳です。
ロシア語で年齢を表すときは、数字によって год(年)の形が変化します。
基本的には、末尾が1の場合は год、2〜4の場合は го́да、それ以外では лет が使われます。例外として、11〜14は末尾の数字にかかわらず лет を使います。
例えば、21歳は два́дцать оди́н год、22歳は два́дцать два го́да、25歳は два́дцать пять лет となります。一方、11歳、12歳、13歳、14歳では、それぞれ оди́ннадцать лет、двена́дцать лет、трина́дцать лет、четы́рнадцать лет と表します。
特定の動詞と一緒に使われる
ロシア語には、目的語として与格を要求する動詞があります。
代表的なものには、次のような動詞があります。
- помога́ть ― 手伝う、助ける
- звони́ть ― 電話する
- сове́товать ― 助言する、勧める
- меша́ть ― 邪魔する
- ве́рить ― 信じる
- нра́виться ― 気に入る
例えば、「私は友人を手伝います」は次のようになります。
- Я помога́ю дру́гу.
― 私は友人を手伝います。
помога́ть は目的語に与格を要求する動詞のため、друг が与格の дру́гу に変化しています。
英語で同じ文を作ると I help my friend. となり、動詞 help の後には直接目的語が続くため、同じ要領でロシア語の方でも対格を使うと考えるかもしれません。しかし、ロシア語の помога́ть では、助ける相手は与格で表します。
このように、英語では直接目的語として表す対象であっても、ロシア語では動詞によっては与格で表すことがあります。
ロシア語では、目的語にどの格を使うか、動詞によって決まっていることがあります。新しい動詞を覚えるときは、意味だけでなく、どの格を要求するのかも一緒に覚えるようにしましょう。
与格を要求する前置詞
ロシア語では、特定の前置詞の後でも与格が使われることがあります。代表的なものが к と по です。
前置詞 к は「к + 与格」の形で、「〜のところへ」「〜の方へ」「〜に向かって」など、ある人や物へ近づく方向を表すときに使われます。
- Я иду́ к врачу́.
― 私は医者のところへ行きます。 - Она́ подошла́ к окну́.
― 彼女は窓のところへ近づきました。
最初の文では врач が与格の врачу́、二つ目の文では окно́ が окну́ に変化しています。
そして前置詞 по も、「по + 与格」の形でよく使われる前置詞です。
по は意味の幅が広く、「〜に沿って」「〜を通って」「〜について」など、文脈によってさまざまな表現を作ります。
- Мы гуля́ем по па́рку.
― 私たちは公園を散歩しています。 - Он идёт по у́лице.
― 彼は通りを歩いています。 - уро́к по ру́сскому языку́
― ロシア語の授業
このように、к と по はどちらも与格と組み合わせて使われる前置詞です。ただし、по は意味や用法が非常に幅広く、一部の定型表現などでは与格以外の格と結び付くこともあります。
まとめ
与格は、ロシア語にある6つの格の一つで、主に「誰に」「何に」という動作の受け手を表します。
主な特徴をまとめると、次のようになります。
- 動作が向けられる相手を表す。
- 感覚や心理状態を表す無人称文で使われる。
- 年齢を表す場合、その対象の人は与格で表す。
- помога́ть など、与格を要求する動詞がある。
- к や по などの前置詞と組み合わせて使われる。
与格にはさまざまな使い方があるため、最初はそれぞれを別々の文法規則として覚えようとしてしまうかもしれません。
しかし、多くの用法には「ある動作や状態が誰かに向けられている」という共通した考え方があります。
最初は「与格=動作や状態が向けられる相手」という基本的なイメージを押さえ、その後に年齢、無人称文、与格を要求する動詞や前置詞を少しずつ覚えていきましょう。



